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超新星の話

そこからはなにも見えないでしょう?
と彼は言った。
そんな月の裏側では、小さな太陽の光さえもとどかない。
もっと、こっちへ。
彼は私の手首を力強くグイと引っ張ると土星の輪の上へと連れて行き、
あの光が弾けた辺りが一番美しいのです。
と彼方に微かに見える紫の光を指差し、私に向かってにっこりと微笑んだ。
あなたはとても運がいい。
一瞬でもあの光を見ることができたのだから…。
そういうと、彼は左の胸ポケットからターコイズグリーンに腐食した銅の鍵を取り出し、
星々の瞬く空間にそっと差し込みカチリと音がするまで捩じ込んだ。
あっ!
私がそう発するよりはやく視界が真暗闇に奪われる。
さっきまで隣にいたはずの彼の気配はこつ然と消え、何処へいったのかさえわからない。
真暗闇の暗闇。
沈黙が支配する静寂。
何もない。何もわからない。
私は一体何処にいるのだろう?
ただ、血液の流動する音だけが鼓膜のふちをなめらかになでる。
もしかしたら、世界のはじまりってこんな感じなのかも知れない。
そうぼんやりと思った瞬間、強力な重力に引っ張られて目が覚めた。
窓の外では雨が降っている。
テーマ : 散文
ジャンル : 小説・文学

Tag:散文・物語  comment:0 

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Akira Kawashima

Author:Akira Kawashima
 

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