ある遠い星の死
僕には、その星がもうすぐ消えてしまうことはわかっていましたし、あの七色に輝く美しい光の瞬きがあなたの知らない間に、あなたの住む小さな町のはずれに小さな衝撃を引き起こすことも知っていました。それは、その町の人、誰一人として気づかないような繊細な衝撃で、かすかな空気の振動と、朝を待つ鴉たちの鳴き声が夜の果てへと辿り着くつかの間、夜空に透明な虹を描くことで生じる衝撃です。時間が雨粒のように幾百か弾け飛び、それが硝子の水蒸気となることが理由のひとつであることは、すでに知られていることですが、それは夜を根城にしているやせっぽちな黒猫と、まだ言葉を上手に扱えぬ幼い子供たちにだけ知られていることがらであって、(大人になるにつれて、何故か人々は大切なことを忘れてしまうものなのです。)遠く、目に見えない孤独な星の爆発を、あなたがその目で見、知ることをもし望むのであれば、僕はあなたを、あなたの住む星を内包する銀河より数億光年遠く、どんな真夜中よりも暗い正真正銘の暗闇へと導いてゆかなくてはなりません。
「この世界で目に見えているものなど、見えていないものに比べるとたいして価値のあるものはない。」と、ことあるごとに僕に言っていたのは、数年前に行方不明になった父方の叔父で、彼のその言葉を思い出すたび、確かに目に見えないものにこそ、何か心を動かすものがある、行方不明になってしまった叔父の存在もまた、目に見えない孤独な星と同じ記憶を僕の心に残している。今、あなたの目に映る夜空が、いずれ実体を持たない思い出に変わってしまうように、すべては泡のように弾けて消えてしまう運命。その消えてしまったものにこそ、あなたの本当に知りたいことが、恋い焦がれてやまない永遠が、たくさんのさよならとともに隠れているのです。答えを時間の砂に埋もれさせたまま自分は何もしないなんて愚行は、懐中時計を首からぶらさげて時間ばかりを気にしている兎か、灰色した時間泥棒にまかせておけばいい。
町を抜け、時間を駆け抜け、夜空を飛び越えて、僕と一緒に見にゆきましょう。
美しく、そして、ひどく哀しい僕らよりも何十億年と長生きした名も無い星の死を。
遠く、目には見えない光は目を閉じた暗闇のなかでこそ美しく輝くもの。
今、この瞬間にも遠い宇宙の何処かで激しく瞬いている星々のように、
あなたの記憶もまた、あなたの無意識の閉じられた箱の中で激しく瞬いているのです。
「この世界で目に見えているものなど、見えていないものに比べるとたいして価値のあるものはない。」と、ことあるごとに僕に言っていたのは、数年前に行方不明になった父方の叔父で、彼のその言葉を思い出すたび、確かに目に見えないものにこそ、何か心を動かすものがある、行方不明になってしまった叔父の存在もまた、目に見えない孤独な星と同じ記憶を僕の心に残している。今、あなたの目に映る夜空が、いずれ実体を持たない思い出に変わってしまうように、すべては泡のように弾けて消えてしまう運命。その消えてしまったものにこそ、あなたの本当に知りたいことが、恋い焦がれてやまない永遠が、たくさんのさよならとともに隠れているのです。答えを時間の砂に埋もれさせたまま自分は何もしないなんて愚行は、懐中時計を首からぶらさげて時間ばかりを気にしている兎か、灰色した時間泥棒にまかせておけばいい。
町を抜け、時間を駆け抜け、夜空を飛び越えて、僕と一緒に見にゆきましょう。
美しく、そして、ひどく哀しい僕らよりも何十億年と長生きした名も無い星の死を。
遠く、目には見えない光は目を閉じた暗闇のなかでこそ美しく輝くもの。
今、この瞬間にも遠い宇宙の何処かで激しく瞬いている星々のように、
あなたの記憶もまた、あなたの無意識の閉じられた箱の中で激しく瞬いているのです。
Comment